建物の部分貸しをする時に頭に入れておきたい借家権として保護される『建物』とは?

1.借地借家法の適用対象となる『建物』

建物を借りる時は、たいていは不動産屋さんで賃貸借契約を結びますよね。

ただ、法律的にみると、

賃貸借契約を締結して入居すると(引渡しを受けると)、借主には『借家権』という権利が発生し、借地借家法に定められた特別の保護が与えられるようになります。

特別の保護の代表例としては、

具体的には、一般的な普通の借家契約を結んだ場合には、契約期間の定めがあったとしても、余程のことがない限りは貸主は更新を拒絶することはできず、借主は更新して物件を使い続けることができ、貸主の一方的な都合で借主を追い出すことはできなくなります。

仮に出て行ってもらうことができたとしても高額な立退料が発生してくるなど、

その他、借地借家法が適用される借家権には、借主を保護する制度が他にも沢山定められています。

ところで、借家権を定めている借地借家法が定義している『建物』とはどよようなものなのでしょうか?

つまり、借地借家法が保護してくれる『建物』とはどのような建物のことを言うのでしょうか?

これは借りる方からしても、また貸す方からしても大きなポイントですよね。

さて『建物』大きく分けて考えてみす。

a.一棟の建物の賃貸借

まず1つ目は『一棟の建物』です。

平家の一軒家から一棟のビルまで様々ですが、借家権の適用対象となります。

これについては感覚的にもよく分かりますよね。

ただ、法律的には厳密な定義がありますが、本日の本題ではないので、詳しく知りたい方は以前書いた記事をご覧ください。

b.建物の一部の賃貸借

さて、もう1つは『建物の一部』になります。

一般の方が建物を借りる時は、多くのケースはこちらになるのではないでしょうか?

アパートやマンションの部屋を借りたり、会社で貸事務所や貸倉庫を借りたり、お店を開くために貸店舗を借りたりなどですね。

では、法律的な話をすると、

『建物の一部』については、原則は建物の賃貸借にはならない、つまり借家権の適用対象ではない、ということになっています。

ただし例外として、

『建物の一部であっても、障壁その他によって他の部分と区画され、独占的排他的な支配が可能な構造・規模を有するものは、借地借家法の建物となる。』(最高裁判例)

ということになり、

つまり、先程のマンションや事務所の一室を借りる場合は、借家権として保護を受けることができる、ということになります。

では、もう少しだけ掘り下げて、

『独占的排他的支配が可能』

とは、どのような状態を言うのでしょうか?

それは、分かりやすく言うと、

『鍵をかけて他人が入ってこられないようにしてある場所』

と言うことになります。

つまり、

『きちんと戸締りができるかできないか』

が判断基準となるわけです。

2.【事例】デパ地下のテナントの場合

例えば、冒頭の写真のようなデパ地下の食料品売り場はいかがでしょうか?

結論としては、借地借家法の適用対象とはならず、借家権は発生しない、と言うことになります。

デパ地下では、よくリニューアルで定期的にテナントとして目新しい店に入れ替わることがありますよね。

しかし、デパ地下のテナントには借家権は発生しないため、退却の際に、百貨店側がテナントに立退料を払う必要はありません。

これについては、私も会社員時代、百貨店の開業時にデパ地下担当だった時期があるのでよく分かります。

デパ地下に借家権が発生してしまったら、デパ地下を魅了的にすることはほぼ不可能になってしまうでしょう。

では、なぜデパ地下のテナントには借家権が発生しないのでしょうか?

それは、先にお伝えした通り、『独立・排他的な支配がない』からです。

もっとわかりやすく言うと、各店舗のケースごとに通路や隣の店舗から入られないようにするために、仕切り壁があったり、鍵がかかるようになっていないからです。

同じ『建物の一部』であったとしても、アパート・マンションの一室や、入り口に鍵の付いた扉のある普通の貸事務所や、正面に鍵のかかるシャッターがある貸店舗とは明らかに違いますよね。

同じように、百貨店の衣料品の各ブランドショップや、商業施設のフードコートなどにおいても、

一見区画割されているような店であったとしても、各店舗ごとの入り口に鍵がかかっていないで、入ろうと思えば誰でも入れてしまうような場合は、

デパ地下のテナントと同じく、借地借家法の適用対象とはなりません。

一方、百貨店の同じ建物の中にあっても、閉店時はシャッターがしまり、鍵をかけて戸締りができるようなテナントの場合は、借地借家法の適用対象となります。

ちなみに、百貨店では、そもそも賃貸借契約よりも、消化仕入契約や委託販売契約など、様々な契約形態を取っているケースが多いと思います。

3.まとめ

外から見るとあまり違いはないように見えても、中身は、特に法律上は全く違う、というケースが多分にあります。

そのため、昨今は新しい貸し方や借り方が増えてきたと思いますが、特に『建物の一部』を貸す時は、賃貸借によってどのような法的効果が出てくるのか、そのメリットとリスクを予め把握しておくことは、借りる方にとっても、貸す方にとっても、とても大切だと思います。